最初は、不快感2割、いたずら心8割のつもりだった。
メガネにチョコを塗ってやったら、忍足は困るかな。
その程度のたくらみだった。

忍足は、嘘をつくのが下手だ。すぐに目を逸らす。

忍足が嘘をついた。
その時点で、不快指数が跳ね上がった。
気づいたらメガネを鍋に落していた。
だって、忍足が知らないわけがないことを知らないと言う。
冷蔵庫を開けた時に既に気づいていた。チョコムースを彼が進んで食べるはずはない。
俺の知らない間に、この部屋に誰かが入って冷蔵庫を開けた。
その事実が、最初の不快感の正体。
忍足は、自分がなんでいま嘘をついているのか、分かってないだろう。
忍足の嘘が、俺じゃない誰かを庇うためのものだということ。それも無意識に。
そこが俺の地雷だった。
これくらい当然の報いだ。

忍足が嘘を認めれば、俺の気はあらかたすんだ。
でも、釘を刺すことは忘れない。
自己嫌悪中の忍足は、俺の好きな忍足の中でも上位だから。
チャンスは逃さない。
これで顔に出してないつもりなところが、また抜けてる。
忍足はそろそろ火に油を注ぐって言う言葉を覚えたほうがいいと思う。

さあて、忍足で遊ぶのもこれくらいにして、チョコを仕上げないと。

そうだな、最後の仕上げに、キミに魔法をかけるよ。
洗面所から出てきた忍足に手招きをする。
さっきあんなことをされたくせに、ノコノコやってくる忍足を少し呆れて見る。
忍足は俺に甘い。これもそろそろ自覚した方がいい。
忍足に用意したチョコとは別の、自分用の激甘チョコを口の中に仕込んだ。
チョコをうすく乗せた舌で忍足の唇を舐める。
忍足の唇にチョコなんか付いてない。
さっきまで洗面所にいて、目の前には鏡があったはずなのに。そんなことにも気づかない。
いい加減、忍足だって俺にイカレてるってこと、思い知ればいい。

俺は、こんな小細工を仕掛けて、ファンタジーを演出してやる程度には、キミに夢中なんだ。
いつか思い知ればいい。





2004-02-14
side慈郎