★「新テニスの王子様」連載開始カウントダウンアップ5題 あと2日
「忍足、うざい」
「うっさいジロー」
まるで口癖のように毎日繰り返される応酬。
慈郎が歩くたび、ひらひらと薄いピンクの花びらが舞う。
「まあた木の下で寝てたんか、頭ピンクになってんで」
「んあ?」
慈郎が無造作に頭を振ると、花吹雪が巻き起こる。
ふわふわのくせ毛に入り込んでいた花びらが舞って落ちた。
「ああああもったいない!可愛かったのに!」
がしっと痛いくらいの力で慈郎の肩を掴んだ忍足は、悲しいほど真剣だった。
至近距離で覗き込まれ、慈郎がうんざりとした表情のじと目で忍足を見上げる。
本気の目が気持ち悪い。
「忍足、うざい」
慈郎は肩を掴まれている腕を力任せに払う。
その反動で、頭に残っていた最後のひとひらが、ひらり落ちた。
「忍足、見てこれ!すごくね!?」
「んーー」
二人きりの部屋で読書を始める忍足の神経が慈郎には理解できない。
テレビをつけてことあるごとに話しかけてみるが、返ってくるのは生返事ばかり。
退屈に任せてチャンネルを回していた慈郎の手が止まる。
天気予報の背景で、見事な満開の桜が映し出されていた。
「忍足、明日花見しよう」
ふと思い立ち誘ってみても、忍足は本から顔を上げもしなければ、聞いてもいない。
「んーー」
床に座っていた慈郎が立ち上がり、脚を組んでソファに座った忍足に近づいた。
「この本、滝に借りたんでしょ?」
「あーーー」
慈郎は、忍足の膝の上の開いたページに手を乗せた。
そこで初めて忍足の顔が上がる。
その隙に、慈郎は本のページを捲った。
「何するんや、いまええとこなんやけど」
読書の邪魔をされた忍足が目を眇めて慈郎を睨む。
「はい、注目!」
そう言われて、忍足は再び本に視線を落とした。
慈郎が開いたのは、巻頭に載っていた登場人物紹介のページ。
「これが殺されて、これが裏切って、これが犯人だよ」
なめらかに指し示されていく名前をつい目で追ってしまった忍足の唇が震える。
あまりのことに、咄嗟に声も出ない。
「ほら読書終わり!明日花見ね!」
「う、」
「う?」
「うっさいジロー!!」
(こんなにうざいのに、わずらわしいと思わないのはなんでだろ)
(こんなに五月蝿いのに、煩わしいと思わんのはなんでやろ)
お題お借りしました 蝶の籠さま
【君に抱いた5つの感想】
2、うざい五月蝿い煩わしい
2009-03-02