20100214



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その校風のお陰でいつでもガチャガチャと落ち着きのない学校だったが、今日は普段とは雰囲気の違う落ち着きのなさで空気が浮わついていた。
鬱陶しいとまでは思わないが、どうにも水に合わない。
昼くらい静かに食べたくて、向かった部室に近付くと、窓のカーテンが開いていた。
閉め忘れたのか、それとも先客がいるのか、なんとなく窓に近付いて中を見る。

ソファの上で金太郎が爆睡していた。
どうせ昼をたらふく食って眠気に負けたのだろう。
「ほんましゃーない……」
呟きを落とし切る前に、部室のドアが開いた。
部長や。
部室に入ってきたのは白石部長で、当然すぐに寝こけている金太郎に気付く。
また怒られるで、と思った矢先、起こすでもなくじっと金太郎を見下ろした部長がふわりと笑った。
よく見るとその手には紙袋を持っている。それをゴソゴソやって何かを取り出す。
それから金太郎が寝ているソファの前に屈みこみ、手を伸ばした。
眠っている金太郎の鼻がひくりと動き、口がパカリと割れる。
金太郎の口の上で、部長の右手が開いた。
意識のないはずの金太郎の口がもぐもぐと動く。
立派な怪奇現象やった。


「部長、知ってますか」
いつだったか、あれを教えたのは俺だ。
「金太郎は、寝てるときでも食いもん口に近付けると寝たまま食いよるんですよ」
この話をすると、大抵の人間は「ウソつけ」「またまた」「ほんまか?」そんな類の反応をする。
部長は、少し目を見開いてから、柔らかく笑った。
「さすが金ちゃんやな」
何が「さすが」なのかようわからんかった。
「ちまいのに食い意地はっとるだけっすわ」


部長の左手にあるのは、チロルチョコの包装紙。
紙袋から新しくもう一つ取り出して、金太郎の口に翳した。
いつまでもこんなとこにおるのもバカらしくて、さっさと部室に入ろうと動く直前、しゃがんでいた部長が腰を浮かした。
ソファの背もたれへ片手を置いて、金太郎に覆い被さるように顔を近づける。
彼の動きに迷いはない。寝たままチョコを租借し終えた唇に、唇を重ねた。

時間にすれば、三秒にも満たない、一瞬。
けれど見間違いようもなく。
体を起こした部長がふと、振り向く。
俺はただ窓辺に立っていただけ。物音をたててしもうたとかそんなヘマはやらかさん。
別にこちらに疚しいところはないのだから、それがヘマになるかと言えばそうでもない気もするけれど。
正面から部長と目が合う。
部長かて俺がおったことを知らなかった。その証拠に、驚いたように目を見開く。この表情は、金太郎の話を教えた時と同じ。
どうするべきか迷った俺は、きっと間抜けな顔をしていただろう。

窓枠の中で、部長は、とても美しく微笑んだ。
白い包帯を纏った人差し指を、さっき金太郎に触れた唇の前にたてる。
それは、逆らうことのできない魔法のようだった。
気付けば、俺はコクリと頷いていた。

部長は立ち上がり、何事もなかったかのように部室から出て行く。
入れ替わりに部室へ入った。
ソファでは金太郎が相変わらずの爆睡を貪っている。
金太郎の枕元に残された紙袋には、たこ焼味のうまい棒とチロルチョコがたくさん入っていた。









Happy Valentine!! with LOVE金蔵v
2010-02-14

 

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バレンタイン大好き!












  
20100314



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「白石!飴ちゃんあげる!」
金太郎が食べ物をくれるなんて、どんな天変地異かと白石は目を丸くした。具合が悪そうには見えないし。
「金ちゃん、どないしたん?腹いっぱいなん?」
「オカンがな、かばんいっぱいに飴ちゃん詰めこみよったん。今日会うた子にあげなさいて」
「あー」
その説明だけで、白石は金太郎の母親の意図を余さず悟った。
「俺ももろてええの?」
「うん」
金太郎が大きく首を縦に振るのを白石は微笑ましく眺める。
「けどいま両手ふさがっとんねん。見ての通りや」
白石は、部室で備品のカウントとチェックをしている最中だった。
話し掛けられ手を止めたものの、数え終えた分とこれから数える分が混ざってしまわないよう、両手でおさえていた。
「そこ置いといてくれるか?ありがとうな」
「んーー」
生返事をした金太郎が白石の死角へと移動する。
背後にある机に飴を乗せてくれるのだろうと考え、白石は備品のカウントを再開する。
ダン!とすぐ横で床に何かを置く音がしたと思ったら、普段ならありえない高さに金太郎のにこやかな顔が現れた。
「え?」
カウントを続けることはできず、手を離すわけにもいかず、白石は両手をふさいだまま金太郎を見る。
視線を下げると、その足元には椅子があった。

「はい、白石、アーン」
椅子を踏み台にして白石に覆いかぶさるようになった金太郎が飴を差し出す。
ふざけているわけでもなく、からかうつもりでもなく、金太郎は大真面目だ。厄介なことに、それはよく伝わる。
いつでも剛速球のストレートに対応しきれず、見逃してアウトを取られてばかりで、後から悔しかったり恥ずかしかったりするのだ。
そろそろここらでなんとかしなければ、アウトが三つたまってしまう。もう後がない。
けれど、焦りを含んだ意識が正解を弾き出すことなど、どだい無理な話だった。
「アーン?」
白石は、素直に口を開けながら、首を傾げる。
見逃しこそしなかったが、振っても当たらなければ、アウトなのだということに気づけなかった。
開いた口に、嬉しそうに笑った金太郎が飴を押し込む。
舌に乗った飴が溶け出すのに時間はかからなかった。

「あまい……」









Happy Whiteday! with LOVE金蔵v
2010-03-14