「あんな、めっちゃでっかいタコヤキやねん!」
小さな身体全体を使って大きな身振り手振りで金太郎が前のめりで話す。
「ふうん」
その様子を微笑ましく見ながら白石が相槌を打つ。
「こんなんやで!」
金太郎は目をキラキラとさせて、胸の前で両手を使ってサッカーボールくらいの大きさの円を作った。
「タコが一匹まるまる座っとるんや」
「へえ」
「あれが食べたい!」
「ふむ……」
「金ちゃん、そらいくらなんでも大げさちゃう?」
何かを考え込むようにする白石が座っているベンチの後ろから、謙也が口を挟んだ。
「そんなんナメック星のドラゴンボール大やんか。いくらでかい言うても地球のドラゴンボールくらいにしとかな」
謙也は、わかりやすいのかわかりにくいのか判断に迷うたとえ話をよく使う。
「しかもタコまるまるて、んなバカな。金ちゃん、そのウソはバレバレやっちゅー話や」
「ウソ?」
金太郎は、大きな目を見開いて、謙也を見上げた。
「それこないだテレビ見たっすわ」
そこへ通りすがりに会話を耳にした財前が一石を投じる。その波紋は、謙也に直撃した。
「は!?マジかや!光」
あまりの衝撃に、言葉遣いまでおかしくなる。
「マジす」
「……まるまる一匹?」
「ちっさいタコですわ、イイダコとか言う」
「ほんまにあるんか!?」
淡々とした財前の説明に、謙也は愕然とした。
「ははっ、ケンヤは人を見る目がなかばい」
キツいことを言ってもさほどキツく聞こえないのは千歳の人柄ゆえ。
「せやかて今日は朝から散々しょーもないウソでダマされとって……」
言いながら、謙也はしゅんと肩を落とした。どう考えても今のは自分が良くない。
「あー、ゴメン金ちゃん」
反省した謙也が項垂れる。
「ワイ、ウソなんかつかへんで」
キョトンとした表情で告げられる言葉は、ただの事実確認で、誰かを責めるような響きは微塵もない。
「知っとる」
白石がすっと右手を伸ばし、わしりと金太郎の頭を撫でた。
気持ちよさそうに目を細めた金太郎と白石の間にできあがるふわりとした独特の雰囲気に、すぐ傍にいたはずのチームメイトは蚊帳の外を味わう。
そんな空気にも動じず割り込むのは、今年二年になる天才。
「ただ、業者さんが行くような商談会の特集やったんで、まだ市販されてるもんやない言うてましたけど」
「ほしたら、今日はムリやな金ちゃん。他のにしい」
「いやや!でっかいタコヤキ!!食ーべーたーい!」
「そうか」
いつものように駄々を捏ねた金太郎をいつもなら止めるはずの白石が、今日は妙にあっさりと引き下がる。
どういう風の吹き回しかと、金太郎以外の全員が白石の顔を覗き込んだ。
「ほなら作ってくれるて。ケンヤが」
白石は、さわやかに言い放つ。
「ほんまに!?」
両手を万歳の形に挙げた金太郎の声が上ずる。
「おいっ!」
突然の無茶振りに謙也が目を剥いて、ベンチの後ろから前へと躍り出る。
「ほんまや」
白石は、謙也を無視して笑顔で金太郎に頷いた。
「いやいやいやいや!ええ男面で何言うてん!?それこそウソやろ!」
ひときわ慌てる謙也を白石は一瞥する。
「俺はいつでも本気やで」
「キリッとさすな!腹たつ!」
「おおきに!ケンヤ!」
ブレーキのかからなかった金太郎に、絶大な期待のこもった目で見上げられた謙也が言葉を詰まらせた。
「良かね、金ちゃん」
「おう!」
金太郎がくるりと千歳に振り向く。金太郎の視線が外れたことに、謙也はほっと息をついた。
あの良くも悪くもまっすぐな目を向こうに回して毎度ブレーキ役を務めているのかと、謙也は改めて白石へ尊敬の念を抱く。
知らぬところで部員の尊敬を勝ち取った部長が今年入ってくる大型ルーキーに、誕生日プレゼントの全貌を明かす。
「ケンヤお手製の合体ジャンボタコ焼きや。楽しみにしとき」
その言葉は覿面の効果を発揮し、金太郎の目が一層輝いた。
「合体!?ロボみたいでカッコええ!」
「……ああ」
それを聞いてようやく謙也は白石の意図を理解し、金太郎の話を聞いていた時の考え込むような素振りに思い当たる。
白石は、最初から金太郎の言う「でっかいタコヤキ」を用意することは難しいと踏んで、金太郎の希望を叶えるための代替案を考えていたのか。
サッカーボール大の円でタコ焼きを作るのは到底無理だが、普通のサイズのタコ焼きをたくさん焼いて大きく見せるのなら、確かに謙也にもできる。
さっきのお詫びも兼ねてやはりここは自分がやるべきだろう、そう謙也は納得した。
「わかった、金ちゃん任せとき!」
「やったー!!」
「ほな、ひとっ走り材料買うて来るわ」
「ワイも行く!」
「おっしゃ行くか」
「金太郎、いらんもん買うたらあかんで」
「う」
わかりやすく動きを止めた金太郎の目線の高さで白石が左手の包帯をほどく仕草を見せる。
「返事は?」
じりと後退った金太郎が、ぎこちなく首を縦に動かした。
「わかった」
「よっしゃ」
白石の右手が金太郎の頭の上でポンと跳ねる。
ふと、何か乾いた音がして白石が音のする方を見ると、何故か謙也が拍手をしていた。
白石は、不思議そうに謙也を見る。
「あ、いや、なんでもあらへん」
白石と目が合って、謙也は思わず叩いてしまっていた手を振った。
「じゃ、あと二台焼き器ば借りてくったい」
やることが決まれば、部員達はそれぞれ動き出す。
「そういうことやから、財前、みんなに連絡頼むわ」
「え、めんどくさいスわ」
歯に衣着せぬ後輩が、重い腰とは裏腹にフットワーク軽く仕事をこなすことを白石は知っている。
「頼んだで」
既に歩き出していた財前の背中へ届くか届かないかの音量で感謝をこめた。
「さてと」
それぞれを見送った白石が立ち上がる。
「タコ焼き食べたらテニスやんなあ」
金太郎がやると言い出すのを見越して、準備をしておくことにする。

「しーらいしー!」
耳慣れた声に呼ばれて顔を上げれば、テニスコートとグラウンドの向こうにあるフェンス越しに、豆粒ほどの金太郎のシルエットがぴょんぴょんと跳ねて手を振っていた。
近くにスピードスターの姿は見えないが、はぐれアビリティを筆頭に付けている後輩を連れて出て迷子にさすほど無責任ではないだろう。
「でっかい声やな」
白石は独りごちてから、手を振り返す。
「気ぃつけて行ってき」
きっとその声は金太郎へは届かなかっただろう。それでも聞こえたかのように、大きな声が返ってきた。
「行ってくんでえ」
よく通る声は、こんなにも遠い距離を感じさせない。
タイミングの良さに白石がふっと微笑む。
「行ってらっしゃい」
再び聞こえるはずのない声を聞いたかのように、くるりと背を向けた豆粒が走り出した。
いつでもどこでも何に対してもフルスロットルな彼は、遠く豆粒ほどの背中でも輝いて見える。
白石は、金太郎の背中が見えなくなるまで目を離せず見送った。
「まぶしい子ぉや」
ぼそりと落とした呟きは誰にも拾われることなくグラウンドの喧騒に紛れて消えた。






2009-04-01
Happy Birthday!! dear 遠山金太郎









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ぐあー!四天時系列やっかい!!
中学金蔵で誕生日ネタってのがまずキツイ上に、ほぼ書き終わってから気付いた…千歳が自然に混じってる……
4月から、4月からか…
きっと春休みには、ふらりと部活見学来て溶け込んでたに違いない(強引)
いっそ削ってもよかったか…ぶっちゃけ頭数増やしたかったんだ……
あ、金ちゃんは小学校の頃からウロチョロしてる設定ですよ(決めつけ)
金ちゃんおめでとー!