あいにくの雨、コートは使えず、室内トレーニングだけを行い、今日の部活は解散となった。

部誌を書いていたところに、飛び込んで来たのは、びしょ濡れのゴンタクレ。
朝から雨は降っていたのに、金太郎は傘を持っていないと言う。
傘なんていらない、などと言う金太郎を強引に留め部誌を仕上げるまで待たせて、一緒に外へ出た。
とてもじゃないが傘なしで外に出られるような小雨ではない。

「入れてもろてんからワイが持つ!」
そう主張して譲らない金太郎がさした傘の中に、身を屈めて並んだ。
「……おおきに」
しかし正直、さすがに二十センチ以上ある身長差で、これはキツい。
「金ちゃん、あの角で交代な」
「ええー」
「次の角でまた交代や」
「……わかったぁ」
しぶしぶというように、金太郎が頷いた。
もう間もなく差し掛かるあの角を曲がれば、しばらく直進の道が続く。
次の角に着く頃には、きっともう金太郎は傘を持つとは言い出さないだろう。

約束の角で、一度脚を止めた。
「はい、交代」
「ん」
金太郎から傘を受け取り、再び並んで歩きだす。
傘を打つ雨の音は一定の勢いを保ち、しばらく止む気配はない。
傘を持った右肩が軽い。
いつもそこにあるラケットケースが、今日はない。それがどうにも落ち着かない。
ふと、右側に視線を落とす。
となりで歩く金太郎の足取りは、いつも通りに軽い。
こんな天気で部活も満足にできなかったのに、金太郎は、ずいぶんと機嫌が良いように見える。
普段のことを考えれば、真っ先にぶーたれて、テニスやる!と騒ぎ出しそうなものなのに。
「金ちゃん、雨イヤやないん?」
「なんで?」
金太郎はキョトンと顔を上げた。
そんなにおかしなことを言っただろうか、一般的に雨が降れば、程度の差こそあれ、誰しも憂鬱の種を抱え持つものだと思っていた。
「雨降っとると歩くだけでも濡れるし、湿気で髪まとまらんし、コートも使えへん」
「せやなあ、テニスできんのはつまらん。けど、」
金太郎は口を尖らせたかと思うと、すぐにパッと笑う。くるくる変わるその表情をじっと眺めていた。
「ワイ雨も好きやで」
「え……?」    
「ぬれるん楽しいし、水たまり跳ぶんも楽しい!」
目を輝かせる金太郎の言うことは単純なようで、理解に難い。
「楽しい?」
濡れるのが?
「楽しいで」
けろりと即答する金太郎の言葉を頭の中で繰り返す。
「そらテニスできんのは、めっちゃがっかりやけど、ワイ、髪もしゃもしゃなっとる白石かて好きやで」
そう言って鮮明に笑う金太郎に、呆気に取られた。
「もしゃもしゃて……そこまでひどくはないやろ」
相変わらずの曇天、重たい雲が天を覆っているのに、束の間、ひだまりの光が差し込むような幻を見る。

あいにくの雨、傘の下に、太陽はあった。









2010-06-20
超ウルトラグレートデリシャスエクスタシー!!記念