※不増不減は 幼馴染みきんぴか を推奨しています(非カプ)
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「昨日な、光とキノコ狩り行ってきてん!」
「光がキノコ狩り!?」
「熱でもあったん!?」
それぞれの会話でざわついていた部室で、声のよく通る金太郎の発言は、吸い寄せるかのように一気に全員の注目を集めた。
「先輩らうっさいっすわ」
話題の中心人物の低温な視線にもめげず、謙也が部員たちの心の中を代弁する。
「やってお前が山登ってキノコ拾うとかどんだけアウトドアなん!まったく想像でけん。山にデニムで行きそうやん」
「アホか。ちゃんとジャージで行ったわ」
「ジャージ!?それもどうなん……」
「遠山のおばさんに押し切られただけですよ、昔からあのひとには勝てん」
さほど悔しくもなさそうに、財前はぼやいた。
とととっと、机にノートを広げていた部長に金太郎が近付く。
「白石におみやげあんで」
つと顔を上げた白石よりも早く謙也が口を開いた。
「えっ白石だけ?」
「ケンヤにはやらん」
金太郎の口からそんな応えが返ってくるとは思いも寄らなかった謙也が一瞬呆気に取られて、けれど、なんとかすぐに持ち直した。
「なんでや金ちゃん」
「光がケンヤには絶対やったらアカンてゆうた」
「は!?なんでや!光!」
金太郎に嫌われたわけではないらしい、と胸を撫で下ろすのもそこそこに、謙也は追及の矛先を真犯人へと変える。
「謙也センパイうるさい」
真犯人は悪びれもせず、一言で会話を断ち切った。
「見てみい白石!めっちゃうまそうやろ!」
持っていたビニール袋を机の上でひっくり返した金太郎の手元を小春が覗き込む。
「へえ、たくさん取れたわねえ」
「めっちゃ生えてた!おもろかったで」
ガタンっと音をたて、座っていた椅子から白石が立ち上がる。
机の上を見ている小春の視界に入った白石の拳が小刻みに震えていた。
「金ちゃん!!!」
随分と上ずった白石の大きな声に、金太郎と小春の視線が上がる。
白石の頬は紅潮し、色の白い肌が綺麗に紅く染まっていた。
よく見れば、少し目も潤んでいる。
「おおきに!ほんまにもろてええの!?」
予想を遙かに超えた白石の大きなリアクションに、金太郎はパチリと瞬いて、それから満面で笑った。
「白石嬉しい?」
白石が嬉しいと金太郎も嬉しい。
「嬉しいなんてもんやないで!お礼するし何でも言うてな!」
「なんでも?ほんまに?」
「ほんまや」
「なんなん……?小春、白石どないしたん?」
つつっと小春の傍に寄ったユウジが白石の異様な反応に声を潜めた。
「さすが金太郎さんやわ」
小春は感心したようにほうと息を吐く。
「なにが?」
「蔵リンの心掴むんがうまいわ。あれは、」
金太郎が机に広げたものをざっと見ただけの小春がキノコの種類の内訳をすべて正確に言い当てた。
「ほんま小春は物知りやなあ」
「ありがと。あそこにあるキノコの共通点は、決して口に入れてはいけないキノコ、てことよ」
「ああ、なるほど」
「とりあえず、光の判断は正解ね」
「あー、ケンヤはもらったら確実に食うな、何の疑いもなく食うわ」
「食べるわね」
試合の時のように息を合わせて、目配せをしながらダブルスは頷き合う。
彼にとってそれは、聞いておかねばならない命にかかわる大事な会話だったのに、目を潤ませ頬を染め大事そうに怪しいキノコを握り締めるクラスメイトをぽかんと口を開けて見る謙也の耳には入らなかった。
2009-11-29
金蔵 秋
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「きのこ」の表記を ひらがな にするか カタカナ にするか、もの凄く悩みました(どうでもいい)