「白石ぃ、せっくすしよ!」
ずいぶん近いところに金太郎の顔があった。そのキラキラした視線を横から受け止めて、けれど、耳は違和感を聞き逃さなかった。
「は……?俺はカンチか」
「カンチ?てなに?かんちやない、せっくす!したい!」
とっさに出てしもた今時の中学生には通じん古いネタを(こないだケンヤんちで従兄弟が送りつけてきよったゆうDVDを見たんや)後悔する間もなく、金太郎が繰り返した言葉に再度耳を疑う。
「え?金ちゃん?なに?」
「白石なんでもするて言うたやん!せやから、せっくす!」
「なんでも?……あ、」
言った、確かに言うた。
金ちゃんがくれたキノコん中にめっちゃレアなんが入ってて、テンション上がって言うた。
けど、え?せっくす?て、あのセックス?え?
やって俺はそんなつもりやなかったし、金ちゃんがまさかこんな……
俺がぐるぐるしてる間に金太郎が俺の膝に乗り上がる。
あれ?ここどこやっけ?
反射的に引いた背に馴染んだ感触があたって、俺はキョロキョロと辺りを見回した。
……俺の部屋や。
何故か俺は自分のベッドの上で金ちゃんに乗っかられてた。
それは間違ない。この背中の下にあるんは、愛用のテンピュール素材の枕や。
せやけど、いままで何してたんかがちっとも思い出せん。
なんで金ちゃんと二人で俺の部屋にいるんやっけ?
さっぱり状況が掴めずに混乱している意識を、カチャカチャというベルトのバックルの音が引き戻した。
よそ見をしているうちに、金太郎が俺のズボンに手をかけていた。
これまた何故か俺は部屋で制服を着ている。さっき帰ってきたばっかなんやっけ?
「ちょっ!金ちゃん!何してるん!?」
ベルトを外した金太郎が躊躇なく当然のようにジッパーを下ろすから、慌ててその肩を押した。
「せやから、せっくすや」
中途半端に押したところでビクリともしない金太郎が顔を上げた。
まるで聞き分けのない子供に対するように、何度も同じ言葉を繰り返す。
「いやいやいやいや!」
「白石ワイとせっくすするんイヤなん?」
泣きそうな目で見上げる金太郎に絶句した。
この状況で泣きたいんはこっちやないん?泣かんけど。
イヤとかそういう問題か?それ以前にもっとこう……段階とかあるやろ。
なんなん?俺が悪いん?
金縛りにあったように動けなくなった俺の脚の上で再び金太郎が動き出す。

下ろしたジッパーを左右に広げ寛げた前たてへ手を伸ばし、最後の一枚を容赦なく掴んだ。

「……ちゃん、」

「クーちゃん!」
「へ!?」
耳元ででかい声が響いて、驚いて飛び起きた。
キョロっと辺りを見渡せば、見慣れた自分の部屋にカーテンの隙間から朝日が差し込んでいた。
ベッドのすぐ横に立っていた妹に、顔を覗きこまれる。
「起きんでええの?」
「んん……?」
未だハッキリしない意識で時計を見ると、七時を回っていた。咄嗟に「朝練!!」と考えて、今日が連休最後の休みだということに思い至り、胸を撫で下ろす。
今日の練習は午後からや。
「いつもやたら早よ起きて変な体操しとるやん。どうしたん?具合でも悪いん?」
確かに休みの日でも生活時間を乱すのは性に合わん。
「いや、ただの寝坊や……友香里ありがとな」
見上げた友香里の表情が見る間に青ざめた。
「ちょっ!クーちゃん!」
「うん?」
「はな!」
「はな……?」
「鼻血出てんで!」
「え」
「ほんまに具合悪ないん?平気?」
下を向くと、言われた通りつうと生温い液体が顔を伝う不快感がある。それを拭った手には、鮮明な赤がべとりとついた。
「あれ?ほんまや、鼻血や」
具合は、悪くない。
「ボけっとしとらんと上向き!」
慌てたようにベッドに飛び乗った友香里が俺の首を無理矢理上に向かせる。グキィッと首が不穏な音をたてた。
「イッタっ!」
俺の悲鳴を意にも介さず、友香里はもの凄く俊敏に動いた。
「ほらティッシュ!」
「……おおきに」
差し出されたティッシュで鼻を押さえた。

片足を俺の脚の上に軽く乗せて膝立ちになった友香里の心配げな顔が上から見下ろす。
脚に乗っかる重みに、ふと、何かが頭を掠めた。

そういえば、なんや夢見とった気がするんやけど、内容忘れてしもた。
まあええか。どうせ夢やし。







2010-03-31
続 金蔵秋










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はい、お気付きの通り、夢オチですよ
うちにはR18もR15もありません
白石の潜在意識がR14くらいなだけで

白石は夢の内容をきれいさっぱり忘れるのでこれがきっかけで何かが始まったりもしません(笑、ていうか無意識下では既に始まりきってるんですが。お互いに)
むせいもしないので(ムダウチせえへん)変な罪悪感を抱くこともなく、金蔵ちゃんはいつも通り仲良しです