「南はオレをキライ?」
こんな訊き方は、卑怯だ。そんなのは、百も承知。
でも、だって、「スキ?」だなんて、とてもじゃないけど、訊けやしない。
唐突な問いかけに、南は胡散臭そうな表情で、オレを見返す。
じっと答えを待ってたら、渋々というように、南が口を開いた。
「……キライじゃない、」
警戒しているような表情で、ためらいがちな小さな声だった。
「じゃあ、スキだよね!」
キライじゃなけりゃスキだなんて、ひどく子供じみた方程式。誘導した言質を取れば、都合のいい答えしか出ない。
それでも、南に口を挟ませず、一気に畳みかけた。
「オレのどこがスキ?」
「は?」
「ねえ、どこがスキ?」
状況の掴めていない南に容赦せず詰め寄る。
「お願いだから、答えてよ」
南はお人好しで律儀だから、わからないなりに、考えこんでくれる。
内心、期待と不安半々に、南の答えを待った。
「うーん……頭?」
「え?」
アタマって聞こえたけど。頭?質問の答え、だよな?
混乱して南をただ見返せば、南は、もう一度繰り返した。
「頭。オレンジなのは、見つけやすい」
「……あ、そ」
喜んでいいところなのか、判断しかねているうちに、さらに南が続ける。
「その頭のお陰で、お前がどこに逃げても、すぐに捕まえられるぞ」
笑いながら南が言う。
オレは、自分の顔が耳まで赤くなるのが分かった。隠したくて、下を向いた。
どこで覚えてきたの、そんな殺し文句。
気を取り直して、動揺を悟られたくなくて、努めて明るく軽い声を出す。
「そっか、オレの長所って頭がオレンジなことだったんだ!」
「はあ?何の話だ?」
南の眉間に皺が寄る。あ、その表情も好きかもなんて、反射的に考える。
「進路指導でね、長所を書いて提出しろって言うから、「ラッキー」って書いて出したら、怒られた」
「お前なあ……」
南は呆れた声を出す。
「他に思いつかなくて、南がスキなとこはオレの長所かなと思ったんだよねー。そっか、オレンジかあ」
ちょっと意表はつかれたけど、それ以上の収穫があった。緩みがちな口元を意識して引き締める。
「ちょっと待て、お前、それで提出する気じゃないだろうな?」
「え?出すよ?」
「やめろ、やめてくれ。お前んとこの担任、すぐ伴爺に告げ口すんだから。進路関係なんて尚更、絶対ダメだ!」
南が珍しいくらいの強い調子で頭ごなしに却下した。
「お前ももっと真面目に考えろよ」
「失礼な!オレはいつだってマジメだよ!!」
「長所、長所か、ちょっと待て」
南はオレの言い分を流して改めて考え込む。
相手にされないってのもかわいそうだけど、長所を考え込まれるってのも、だいぶ気の毒だ。
オレだったら、南の長所のひとつやふたつすぐに思いつくのにな。
たとえば、えーと、……地味、とか?
「要領がいい?ダメか、進路じゃ使えないな」
ブツブツと小さく自問自答しながら考えていた南が、パッと顔を上げた。
「明るい、でいいんじゃないか?」
「ひどい、南!いま、もうテキトーでいいやって思ったでしょ!」
あまりに投げやりな答えに、思わず噛みつく。
「う」
そこで詰まらないでよ、傷つくじゃんか。
「だいたい、お前の日頃の行いが悪いんだろ」
そんなことを言われて、けれどそれを開き直りだと彼を責めるには、分の悪すぎる覚えが山ほどあった。
反論できずにいると、南が指を折りながら具体例を挙げていく。
「部活はサボるし、他校で問題は起こすし、アイス当てまくって高等部の購買出入り禁止になるし、マークシートテストで鉛筆転がしてたのバレて何故か俺まで怒られるし、裏門の塀越えして呼び出されるし、あれマジで危ないからやめろよな」
南は一息でそこまで言うと、ジロリと音のしそうな視線をよこす。
「わあ、短所はいっぱい出てくるねえ」
「他人事みたいに言うな」
オレだって、南を困らせたいわけじゃない。
でも、南の困ったときの表情も好きなんだ、
「困ったもんだねえ」
ほんとに。ごめんね、南。
「だから、他人事じゃないだろ」
南はため息をついて、オレの好きな困ったような表情で笑った。
決して、南を困らせたいわけじゃないけど。
さっき南が並べたものの中に、南に黙ってたことも入ってて、それが嬉しくて笑いそうになるのを我慢した。
少しはオレのことを気にしていてくれるのかと、自惚れる。
こんな小さなことが呆れるほど嬉しくて、こんなにキミが好きで大丈夫か、とたまに思う。
でも、キミを好きになった自分は、嫌いじゃない。
この気持ちは、ひとに誇れるんじゃないかと思う。
そういうのをきっと長所って言うんだろう。
「南を好きなこと」と書いて提出したら、またキミを困らせるかな、
そんなことを考えながら、プリントには「明るい」と書いて、気持ちと一緒に鞄に仕舞った。
HAPPY BIRTHDAY!! dear 南健太郎
2005-07-03
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これでも一応、私は、いつでも千→×←南のつもりで書いています。
千→南ではないんですよ、(説得力ないけど)
なので、たまには、南が千石を好きで好きで仕方ない話を書きたかったんですが、初っぱなから千石一人称な時点でアウトでした。気づけ。