近くで誰かがジングルベルを歌っていた。
子供が微笑ましく歌っているような幼い声ではない。
普通ならば異様さを醸し出すはずのその声は、しかし、明るく響き、例えば凍えた空気を温かくするような、そんな力を持っているようだった。
隣の傘の下で、南が笑う気配がした。
そんな些細なことにさえ、悲鳴をあげる脆弱な独占欲に苦笑する。

「なんで先輩のオレたちがふたりで買い出しなの!ねぇ、南!」
別に年功序列を崇拝してるわけじゃないし、ほんとは南とふたりで歩いているこの状況は、嬉しかった。
ただ、南の気を惹きたかったんだ。
南の傘の位置の方が高いから少し覗き込めば、顔が見えた。
「ジャンケンで負けたからだろ」
南は真面目くさった顔で分かり切っている当たり前のことを言う。
それでも、南の視線がこっちを向いていたから、とりあえず満足した。
「なんでジャンケンなんかで決めたのさ〜!」
なんとなく会話を続けたくて食い下がってみる。
「他に何で決めんだよ?クジは無駄な時間がかかるし、コインは却下な」
先手を打たれて、言葉に詰まる。コイン却下というのが理不尽だったけど、その理由は聞くまでもなかった。
「えーと、多数決とか?」
深く考えもせずに、提案した。
「おまえ……、買い出しを多数決で決めたら、イジメだろ……」
言われて、なるほどそうか、と納得をする。
「あ、そっか。……あ!あのね、」
商店街に飾ってある一際大きなツリーが目に入り、ふと思い出したことがあった。
「南知ってた?サンタ会議で多数決するときはね、サンタが一斉にホッホッホーって言いながら手を挙げるんだよ」
少し自慢気に南を見上げれば、南は胡散臭気な顔でこっちを見ていた。
「あ、信じてないでしょ!ホントなんだから!!ホッホッホーってサンタ語なんだよ!!」
南の視線が前方へついっと動く。堂々巡りを断ち切ろうとする時の癖だった。
「馬鹿なこと言ってないでさっさと行くぞ。今日はさすがに手がないと荷物が持ちきれないんだから。つうか、だいたいサンタ会議ってなんだよ…」
南は、どんなに馬鹿なことだと思ってても無視はしない。オレだってサンタ会議を信じてくれなくたって良かった。
でも、オレの位置づけの投げやりさが気に入らない。
「南は、オレが荷物持ち程度にしか役に立たないと思ってるんでしょ!」
日頃の行いのせいだと言われれば、それまでだけど。
「思ってねーよ」
南の反駁も耳に入らず、サッと行動を起こす。
すぐ横で揺れていた南の右腕を引っぱって、その手を両手で包む。
「オレだって役に立つよ!ホラ!南が凍えてたら、暖めてあげられる!」
手袋をしていない南の手は冷たい。
すぐに振り払われるかと思っていたのに、予想に反して南は固まったように動かない。
「……おまえ、体温高いのな」
ポツリとそれだけ言った。
実は、さっきまで手を入れていたポケットにカイロを仕込んでいたんだけど。
それは言わないでおくことにした。
「ね、役に立つでしょ!まず、ケーキだっけ?さ、行こう!」
そのまま、南の手を引いて歩き出す。
右手には傘を持って、左手に南の手を繋いだ。南は、左手に傘を持っている。

もしもいま転んだりしたら、ふたりもろともだな、と思った。
それはそれで、幸せじゃないか、と思った。






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クリスマスは4CP(慈忍・千南・28・柳乾)微妙にリンクしています。
山吹と氷帝の学校の位置がどんなもんなのか、気になるところ。