南がオレのおでこの右上あたりを見ながら、紙袋を差し出した。
それは、決して身長差のせいじゃなく。
いつもまっすぐにオレの目を見る南がさっきから目を合わそうとしない。
そんなふうにされたら、俄然、紙袋の中が気になるじゃないか!
ほんとは、プレゼントなんていらないんだ。
でも、南がオレのために、選んでくれたもの、というのには興味があった。
南には悪いけれど、これっぽっちも期待なんてしていないから、何が出てきても、がっかりはしない。
申し訳なさそうに差し出された紙袋を受け取る。控えめに添えられた「おめでとう」が嬉しかった。
お礼もそこそこにすぐに紙袋を開けてみる。
自慢じゃないけど、気は長い方じゃない。
中から取り出した、小さな箱を手のひらに乗せ、しばし、呆然とする。
その箱には、見覚えがあった。
少し前にやたら流行った、オマケ付きのお菓子。
動物のキャラクターをモチーフにしたお菓子の入れ物が付いてくる。
そのキャラクターが受けて、ついひと月前くらいまでは、どこの店へ行っても、山のように積まれていた。
けれど、流行り廃りというものは気まぐれな上、周期が速く、今ではついにどこの店でも見ないようになってしまったものだ。
(こんなの、いまさらどこから持ってくるんだろう……さすが南だ。時間の流れが違う)
オレが驚いた理由は、それが半分。
プレゼントのくせに、開封されている箱。その中身が見える。
たしかに一時期、オレはこのシリーズを買い漁っていたことがあった。
欲しいものがあったんだ。
結局、目的のものは出ることはないまま、飽きっぽいオレは買うのをやめてしまったけれど。
なにせ、種類が多かった。
それも人気の出た理由だったけど、ひとつしか欲しくない奴にとっては、迷惑以外の何ものでもなかった。
一度だけ、その話を南にしたことがある。
ただの世間話だった。日常会話だった。
それを流さずに聞いていてくれていたキミに。驚いた。
そんなことを覚えていてくれた、キミが。愛しくて。
探してくれた、キミに。柄にもなく感動した。
傍から見ると、無反応だったのか、南が横で懸命に言い訳をしている。
「お前が何を欲しいか言わないのが悪いんだからな!俺は、ちゃんと訊いただろ!」
それが可愛いから、このままにしておくか。
「南ー!ありがとう!!マジで嬉しい!感激した!!」
調子をつけてわざと軽い口調で言う。
「うるさい。馬鹿にしてるだろ」
逆ギレ気味にそっぽを向くその目元が赤くて、こっちを向かせたくなった。
意識して声を変える。
「だって、コレほんとに欲しかったんだ」
実は、いままで忘れてたけど。
そういえば、なんで当たらないのか不思議だったんだ。ああいうの、オレは得意なのに。
ちょっと凹んだんだっけ。自惚れてたかなって。
でも、いまわかった。
当たらない方が幸運だったんだ。オレにとって。
隠す必要もないから、にやける顔もそのままに、オレは手の中のライオンに唇で触れた。
欲しかったライオンは、彼の髪型に似た鬣とこの少し間の抜けた表情が気に入っている。
南を盗み見ると、毒気を抜かれたような表情でこっちを見ていた。
目が合って南が笑った。
たったそれだけのことが、ものすごく嬉しくて。
少し悔しくなる。
なんでこうも南はオレの根っこのとこを掴むのが上手いんだろう。
惚れた弱みと言うには、報われ過ぎてる気がする。
それなのに、南の無意識さが、少し虚しいって言ったら、罰があたるかな。
つい後ろを向きがちな思考をすぐに転換して、顔を上げる。
(うん、まだまだこれからだ)
オレがどれだけキミを好きか、伝えていくことに全てを惜しまない。
力も時間も手間も。
いまオレは、充分幸せだ。
でもやっぱり悔しいから、今日はひとことだけ。
「ありがとう、南!」
HAPPY BIRTHDAY!! dear 千石清純
2004-11-25
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いい加減、ワンパターンな話ばかりでスミマセン…
自分の萌の頑なさと、結局書きたいことはひとつなんだな、ということに気づき、呆れたり、感心したり。