着信を告げた携帯を慣れた動作で操作する。
登録されていないメールアドレスからメールが来ていた。
また迷惑メールかと、うんざりしながらも、一応の義理は通し確認してみる。

[件名]
貞治へ

[本文]
昨今の通信事情を鑑みて不本意ながら携帯電話を持つことにした
お前には言っておこうと思ってな
柳蓮二

まず、携帯など必要ない、と頑なに言っていた蓮二がどういう心境の変化かと驚く。
次に、知らせてくれたことが単純に嬉しかった。
しかし、肝心の電話番号が書いていない。蓮二のくせに抜けている。
早速返信をして、番号を尋ねた。

それにしても携帯の操作など不慣れなはずなのに、最初から漢字変換や改行のやけに流暢なメールが可愛くないな、と思いながらアドレスを登録する。
すぐに返事が返ってくると思っていたが、なかなか返ってこない。
ずっと持ちっぱなしだった携帯を開けて時間を確かめる。
この時間なら、蓮二は帰宅途中のはずだ。
よく見れば、メールを送ってからまだ五分と経っていなかった。
少し落ち着け、と自分に言い聞かせる。
きっと着信に気付いていないのだ、そのうち返ってくるだろう。
そう思いつつも、なんだか落ち着かず、意識が常に電話にいってしまう。

焦らすのは好きだが、焦らされるのは趣味じゃない。
いつでも我先に答えを知りたがる、そういう性分なのだから仕方がない。

食事中も着信があればすぐにわかるように、携帯をポケットへ突っ込んだ。
風呂場でも聞こえるように、着信音を最大に設定して、脱衣所へ置いた。
それなのに、携帯はピクリともせず、さらなる焦燥を煽る。
こういうときに限って他の着信もない。
ぬか喜びせずに済むという点ではありがたかったが、一層孤独さが増す。

散々待たされて、やっと着信があったのは、明日のメニューを見直しているときだった。
全く集中できず、ため息をついた瞬間、鳴りだした携帯に飛びついた。
「やっときた!くそ」
独り言もそこそこに、電光石火に携帯を操作し、メールボックスを開く。
確かに、登録した蓮二のアドレスからのメールだった。
我ながら、いそいそと、本文を開いた。


[件名]
Re:教授へ

[本文]
どこのどなたかぞんじませんがあてさきをまちがえているようですごか くにんおねがいしますりつかいだいふそくちゆうさなだげんいちろう


だ、騙された……!




2005-04-01







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書き終わってみたら、思ったよりも面白くなくてびっくりしました。
でもせっかくだから、上げてみる。
side Y で柳側の話を書いてます。