※注意※
某D氏が独走してらっしゃる沖近アラジン設定をパク…リスペクトして、自分の土俵に持ってきました。
なんか色々不親切ですが、世界観はアラジンで、沖田が王子(8歳時。いずれ王様)・近藤さんがランプの精です。

※1冊目のアラジン本を読んだだけの段階で書いてます。設定とか諸々清々しいほど捏造してます。
  ので、二次創作の二次という心持ちでお願いします。

                    





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「おや、どこの賢そうな子供かと思ったら、俺じゃあねえかィ」
「誰だ、テメエ」
「殺気のこもった良い眼だな。その質問に答えよう、俺が誰かって?」

「俺は、お前さ」



  アラジン de Wそうご



事の起こりは、二十分ほど遡る。

「なあ、そーご。ほんとに何も願わないの?」
「しつこい」
「だって、それだと俺のアイデンティテーが」
「あいでんてぃてーって何でィ?」
「さあ?鴨先生がこないだ言ってた。イソーローって言われたよ」
「アイツらの言うことなんかまともに取り合わなくていい」
王子の世話役を務める側近達は、そーごが何をしても気に入らないとでもいうように、いちいち口うるさい。
「そーご、そんなこと言っちゃダメだ。みんなそーごを、国を、とても大事に思ってる」
コンドーは、この国のことを話すとき、とても愛おしげにふわりと笑う。
そーごとコンドーは出会ってからもうすぐ一年になる。
魔神のその表情に、なぜかそーごは苛ついていた。その理由は自分でも分からない。
「じゃあ、早く大人になりたい」
少しコンドーを困らせてやろうと思った。
「えっ!なんで!?そんな願いもったいない!」
「どーせできねんだろィ」
「違うよ!そんなの止めた方がいいもの!もったいない!!」
「さっきから何がもったいないってのかわかんない」
「だって、年月を重ねれば誰だって大人になるんだよ、そんなの魔法に頼らなくったって誰でも」
「だからそこを一足飛びにしたいんじゃねえか」
「ええー……なんでそんなこと考えるかなあ」
そーごの目論見通り、コンドーは困ったようにため息をついた。

しかし、そーごの予想外の方向へ話は転がる。
「ねえ今日何の日か知ってる?」
コンドーは、唐突に切り出した。
「は?建国記念日だろ。式典やる気満々でアイツらがうるっさく動き回ってる」
うんざりとした声音で、そーごが答える。
建国記念と言ったって、何がそんなにめでたいのかそーごには理解できない。決まり切ったしきたりをなぞるだけの式典など退屈なだけだ。
「そう、建国記念日!だから、今日はトクベツに魔法のお試しをしてあげる」
そーごには、だから、の意味がよくわからなかったが、試しに見せるというのを止める手はない。
「ふうん?何ができるんでィ」
興味なさげに訊いたそーごに、コンドーは少し考えた。
「う〜ん、けっこう色々できるんだよ。そうだな、たとえばこんなのは?」
コンドーは人差し指をくるくるっと回し、宙で大きく螺旋を描く。同時に呪文を唱えた。
「大人の総悟に会わせてやるぞーさんのウンコメッさデカイ!」
「……なにその呪文」
果たして呪文なのかどうかも怪しかったが、コンドーがそれを唱えた途端、変化は劇的に起きた。

王子の自室のほぼ中央にあるカウチが、ぼふん!という効果音とともに白い煙に包まれる。
煙幕は徐々に晴れ、誰も居なかったはずのカウチの上に、人影があるように見えた。
見間違いかとそーごが目をこらすまでもなく、煙の消えたそこには、見ただけでも上等とわかる衣を身に纏った男が、気怠げに寝そべっていた。
突然出現した男は特に驚いた様子もなく、ここがまるで十年来馴染んだ自室であるかのように寛いでいる。
この場で驚いているのは、そーごただひとり。そーごは、思ったままを口にする。その男が何者なのか誰何した。
ここで、遡った時計の針は現在に追いつく。


「はあ?おれ……?」
「そうだ、お前だ。二十年後の」
「にじゅう……?」
にわかには理解しがたく信じがたい状況を前に固まって呟くそーごを放って、総悟は寝そべっていた身体を起こし魔神を見る。
「やあ、少し昔のコンドー。ああ、やはりお前は変わらないな」
「総悟〜いらっしゃい」
コンドーがそーごの隣から進み出てカウチの前まで移動し、満面の笑みで総悟を歓迎する。
「お招きいただき光栄だ」
総悟は目の前に立ったコンドーの手を取り、唇を落とした。一連の動作が自然過ぎて誰が見ても彼の行動に違和感を感じないほど。
当事者のコンドーは、口付けられた手を引くでもなく赤面するでもなく、ただ自分の手を見下ろした。
「あらら、こんなふうに育っちゃったかあ」
「こんなふうは、嫌いか?」
「いいや、総悟が総悟らしく育ってくれたら嬉しいよ」
けろりとコンドーが笑った瞬間、走る距離でもないところを全速力で近づいたそーごが二人の繋がった部分をバチンと音をたててコンドーの手ごとはたき落とす。
「痛ったい!!」
そーごは、コンドーの悲鳴も無視してその背衣を引っ張り、総悟の座るカウチの対極にある一人掛けの椅子まで引き摺って進んだ。
魔神はその風貌に反して、驚くほど軽い。子供の力でも難なく引き摺ることができる。
部屋を横切りさっきまで自分が座っていた椅子の前で止まるとコンドーの前に回り、どんと手加減なく押してコンドーを強引に座らせる。
コンドーが抵抗もせずにすとんと腰掛けると、そーごはその膝の上によじ登り、正面からがしりと抱きついた。
そーごは一言も発さなかったが、小さな背中が言葉よりも雄弁に、触るな、と語る。

子供のストレートな行動を眺めながら、総悟は眩しそうに目を細めた。
しかしすぐに表情を取り繕い、再び優雅な所作でカウチへ寝そべる。
そのまま魔神に張り付いている子供の背中へ話しかけた。
「せっかく来たんだ。何か訊きたいことはあるか?ひとつだけ答えてやろう」
「別にお前に訊きたいことなんてねーよ」
そーごは、深く考えもせずに、直感で気に入らない相手の言葉をはねつける。
想像通りの反応に、総悟は浮かべた笑顔を崩さないまま、けれどその声は強く厳しく響いた。
「若さを愚かさの理由にするんじゃない、チャンスは生かせよ。では、俺からひとつ」
そのたった一言で、立場が逆転する。訊く者から訊かれる者へと。

「お前はいま寂しいか?」
その質問に、そーごはつい振り向いて寝転がった男の顔を見る。
そんなことを訊かれるとは思わなかった。
寂しいかなんて、そんなの。
そーごは、改めて考える。
つい一年前は自分を置いて逝ってしまった姉に会いたくて会いたくて会いたくて、寂しくて寂しくて仕方なかった。
それなのに、いまは?
「あれ……?」
一体いつから寂しいと思わなくなったのだろう。
いまでも胸を占める姉の大きさはまったく変わらないのに。なぜだろうと考えて、ふと暖かさに慣れてしまった自分に気付く。
ぎゅうと抱きしめた自分とは違うぬくもりから少し身体を離して、そーごはじっと頭上を見上げた。
「ん?」
視線の交わった先で、コンドーが首を傾げる。
コンドーの疑問にも総悟の質問にも答えず、そーごはコンドーの膝の上で器用に方向転換をし、総悟と向かい合う。
「お前はどーなんだよ?」
そーごは、二十年後の自分だと嘯く男をまっすぐ見据えて、そう訊いた。
「ふん、その切り返しは悪くない」
総悟は、楽しげに笑いながら即答した。
「二十年後も、お前は寂しくないぞ。俺が保証してやる」

それを聞いた子供の顔が曇る。
そーごは、果たしてこれが自分の聞きたかった答えなのかと、迷った。
何食わぬ顔で「二十年後も」と表現した男には、何もかもを見透かされている。

総悟が誰にも悟られぬように、こそりとため息をつく。
「こうも身内に甘いのは、長いことアレの傍にいるせいだ、絶対そうに決まってら」
口の中で言い訳めいた何かを呟いた。それを聞き取る者は居ない。

「サービスだ」
唐突に言い放たれた言葉に、俯いたそーごの顔が上がる。
「もうひとつ、良いことを教えてやろう」
総悟はちょいちょいっと指を動かし、近くへ寄れと無言で命じた。
あくまで上からに徹する態度に、そーごが反射的に憎まれ口を叩く。
「えらそーに。何様だ」
総悟は、ふっと笑う。
「正真正銘の、王様だ」
総悟の軽口にそーごはぐっと言葉を詰まらせてから、少し考える。
「なんだよ」
決して言いなりになるわけではないが、チャンスは生かせ、という言葉に説得力があったのも真実だ。
そーごは渋々コンドーの膝から降り、ゆっくりと部屋の中央へ歩く。
総悟はその間に半身を起こして、カウチの前で脚を止めたそーごの耳に唇を近づけた。
「今日は、建国記念日だな」
声を低めて耳打たれたのは、教えてもらわずとも知っている周知の事実。
「そーだけど」
当然のようにそーごの声が不満げに上がる。
「知っているか。この国の礎は魔神の誕生とともに、できたのだ」
すぐに続いた総悟の言葉に、何かに気付きハッとしたそーごが振り返る。
目が合ったコンドーがにへらと暢気に手を振った。
「この国と時を同じくして生まれた魔神は、国を国民を心から愛し、いまでも守護している」
いまも、二十年後も。遙か昔からきっとこの先もずっと。

内緒話を終え、総悟が座り直す。
「では、そろそろ俺の魔神の元へ戻るとしよう」
そーごは、至近距離で総悟を見ていた。
男は、ここへ来てからずっとへらへらとした表情で笑顔を絶やさなかった。けれど、そう言ったときだけ、そっと目蓋を落とした。
それを見逃さなかったそーごは、内心ひどく安堵する。
寂しくない、と言った男の根拠が自分と同じであることに気付き、さっきの答えが気休めなどではないことを確信する。
(ああ、彼は傍に居てくれるのか)

己の引き際を見極めた総悟が視線を上げた。
「じゃあなコンドー。また十秒あとの二十年後に」
コンドーにだけ告げた挨拶の締めには、軽い動作でキスを飛ばす。
その一連をすぐ近くで見ていたそーごが苦虫を噛み潰したような表情になる。
「まったねー総悟」
のんびりとしたコンドーの声が消えるのと、カウチが空になるのが同時だった。


魔法の切れた空間をしばし眺めてから、勢いよく振り返ったそーごの目は据わっていた。
「コンドー!俺は絶対あんな風にはならない!」
「そう?カッコよかったよ総悟」
そーごは、他人事のような賛辞を喜ぶほど馬鹿じゃない。
ムッとしたそーごに、コンドーがにこりと笑いかける。
「まあ、それならズルしないでちゃんと大人にならないと」
結局コンドーの思惑通りに事が進んだことに、そーごはやっと思い至り低く唸る。
「……わかった」
道理でさっきまでずいぶんと大人しかったわけだ。
「いい子だ!」
満面で笑うコンドーがそーごを手放しで誉める。
そーごは、そんな一言で機嫌が持ち直す自分に呆れた。
「はあ、とりあえずクソつまんない式典にでも顔出してくっか」
「おお!王子っぽい」
パチパチパチと大げさに手を叩くコンドーに、そーごはふっと表情を緩めた。その表情は、ついさっきカウチの上にあったものと瓜二つ。
「しょーしんしょーめーの、王子でィ」
まずは着替えるために、すべてが用意されているはずの式典控室へと移動しようと、そーごは自室のドアへと進む。

「あ、それから、」
部屋から出る寸前、振り向いたそーごは、ついでのように言った。
「誕生日、おめでと」

コンドーが何か反応を返す前に、重厚なドアの閉まる音が響く。

この年を境に、そーごの中で建国記念日の意味と意義が変わった。







砂漠の中の王国 建国記念日 
むかしむかしの 4月7日







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今回のWそうごは、番外編
総悟=そーご(同一人物) なので、険悪さの方向性がいつもと違います

18歳総悟はどんの本編を楽しみに(私が)
今回は、個人的な欲望にやや忠実に29歳総悟にしてみました(本意気で忠実になると39歳のが好み(笑))
歳と王様設定のせいで、やたら総悟が落ち着いてる(笑)てゆーか別人?もはや沖近であるかどうかすら怪しい…
一応言い訳をさせてもらいますと、本文の29総悟は、おもっきし猫被ってる状態です、20年で培った王様そとづら発動的な
コンドーの前(20年後の)では、普通にべらんめえで喋ります