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勝敗を告げる審判のコールをどこか遠くで聞いていた。

最後の一球を打ち返さなかった彼らに宍戸さんが詰め寄った。
呆とした意識のまま無意識に視線を動かした先で、合うはずだった視線は、意図的にずらされた。
そこで初めて実感が湧く。

勝ったのか。


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チームの進退がかかったゲームをあいつはクリアして、俺は落とした。ただそれだけだ。

ただそれだけなのに、あいつが勝っても負けても泣きたくなるなんて、馬鹿みたいじゃないか。
コートからの視線を思わず避けた。


監督の話を聞き終えた鳳が近づいてくる。
いつまでも俯いているわけにもいかない。そんな性分でもない。
迷いなく真っ直ぐ伸ばされた拳に、少し躊躇ってから軽く拳を合わせた。
かける言葉はない。
「どうかしたの、日吉」
すぐにそっぽを向いたのに、覗き込まれてしまっては台無しだ。
「別に。お前は勝って、俺は負けた。ただそれだけだ。あの時と同じ、ただそれだけだ」
途端に鳳の声のトーンが変わる。
きっといま鳳の眉間には皺が寄っているだろう。見なくてもわかった。
鳳の表情変化は、大雑把でストレートだから想像に難くない。
「そうじゃないだろ、同じじゃない」
そう、同じじゃない。
ここまで来たら今日は勝つさ。あのひとは俺とは違う。

「日吉は前に進んでる。過去と同じなんかじゃ絶対に、ない。そんなこと自分でよくわかってるくせに」
何故かいつもこの男の前では、うまく虚勢が張れなかった。
見せたくないものばかりを見せてしまう。
気を遣うとか計算をするとか、そんなこととは無縁の次元で、やわらかい言葉を選ぶ鳳に苛つく。
鳳は、こないだは負けたが今日は勝つ、というような言い方を決してしない。
たとえ本人にその気がなくても、気を遣われているようで不愉快だ。
そんな風にしか思えない自分にもうんざりだ。
鳳と話していると苛々する。余裕がなくなる。不安になる。
「ふん」
会話を断ち切りたくて、言葉を遮断した。

「行くぞ、長太郎」
短く先輩が鳳を呼ぶ。
「あ、はい!」
すぐに踵を返した背中を反射的に目で追った。

お前には俺の気持ちなんて一生わからない。

そんな当たり前のことを、ひどく歯がゆく思ってしまう自分に困惑した。


*
クールダウンへ向かう道すがら考える。
結局、強引に覗き込んだ一度だけしか彼と目が合わなかった。

日吉はものを複雑に考えすぎる。
責任感が強いのだ。
もちろん悪いことじゃないけれど、何事も度が過ぎるのはよくない。
何を思っているのか、もっと話してくれたらいいのに。
日吉は言葉が少なすぎる。
生まれついた性質だなんて簡単な一言で終わらせたくない。
俺は頭が悪いから、言ってくれなきゃわからない。
わからないことは訊けばいい。
わからないから教えてくれ、と彼に言おう。
独りで考えていても埒があかない。正解を持っているのは日吉だけだ。

いま、なにを思ってる?

まず、この試合が終わったら。


君が何を思っているのか、俺は知りたい。






2006-02-14
HAPPY BIRTHDAY!! dear 鳳長太郎







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きっとトリヒヨって、本来はもっとさっぱりすっきり淡く甘くかわいいものなはず!
おかしいなあ…