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「やって白石、カゼひいたんやろ?」
「え?」
「カゼってめっちゃしんどいんやろ?」
「ああ、……せやな?」
金太郎の言いたいことがなかなか伝わらず、続く言葉に耳を澄ます。
「こないだケンヤ死にそうやったもん」
続いた言葉に、思わず背筋を伸ばした。
「金ちゃん!こないだケンヤに会ったんか!?」
「フラフラ歩いとってん。ケンヤが、めっちゃゆっくり!どないしたんってきいたらカゼっぽいて言うてた」
ぽいってなんやあのアホ。
「ケンヤは動いとらんと死んでまうんやて、オサムちゃんが言うてたのほんまやったんやな」
「は?」
「いまにも止まってまいそうやった」
そりゃ倒れそうやったんや……オサムちゃんまたテキトーなこと言うて。
「金ちゃんは具合悪ないん?」
「ワイ元気やで!」
金太郎の声音がテンションを取り戻した。
「そうか。ケンヤもまだ休んどるやろ?」
「知らん!……けど、あれから会うとらん」
きっぱりと答えた金太郎が、記憶を探るように黙り込み、しばし。
「……白石!!」
壁一枚向こうだけの距離で、ただでさえでかい地声を唐突に張り上げるから、胆が竦む。
「な、なんや。でかい声で」
「ケンヤ死んでもうたん!?」
金太郎の弾き出した答えに、脱力した。
「……金太郎……。めったなこと言いなや」
「いやや!ケンヤ死んだらアカン!!」
思い至った可能性の恐怖に取り乱す金太郎に届くようにゆっくりと言い含める。
「ケンヤは底抜けのアホやけど、アホじゃ人は死なんから安心し」
「ほんまに?ケンヤ死なん?」
「死なん。またピンピン走りよるわ」
もしもアホが治るならいっぺん死んでもええけど。ケンヤめ……人を巻込みよってからに。
明らかに熱のある赤い顔でヘラヘラしよって。
なんや知らんが人の顔見た途端、ヘラリと笑って意識を飛ばしやがった。「かいきんしょう……」て譫言付きで。
あのアホ皆勤賞を履き違えとる。
目の前で倒れられてほっとくわけにもいかんし、担いで保健室連れてって家に連絡入れて迎えが来るまで看とったらこのザマや。
「ケンヤが」
「ケンヤぁ?」
「ん?」
あ、しもた。アホ振り返っとったらつい声低なってしもた。
「いや何でもない。ケンヤがどないしたん?」
「ケンヤがな、ワイの手冷たあて気持ちええて言うたんや」
……あいつ、どんだけ熱あったんや。確かに担いだ時も熱かったけど。金ちゃんの手が冷たいて相当やぞ。
「せやから白石もワイの手、気持ちええやろ!」
こっから顔は見えんけど、きっといま、金太郎は満面の笑み。
金太郎の頭の中の方程式が見えた気がした。
「あーー、ああ……」
「白石触りに来たん!触りたい!」
「触りたいて……」
「白石はワイが治したるねん!」
「金ちゃん……」
目ぇキラキラさせとんやろなあ……。
「なー、入ってもええ?」
「ナーもゴロニャンもないわ……ええか、ちょお待ち」
こうなったらもう入れたらな収集つかん。
……さて、どないしよ。
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